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Aris Farm

大変古い話ですが、1996年の2月、同じ業界の I さんから電話がかかってきました。

I さん:「・・・あのさ、アリスファームって知ってるっしょ! そこの Fさんが新しい本部の設計をしてくれる建築家を捜してるんだけどさ、君、やらない?」    

・・・・と言う訳で、当時後志管内仁木町にあったAris Farmへ 代表のF氏に会いに行きました。 初対面のF氏の印象は、とにかく「タフ」・・・・・F氏は、「高度な自給自足」と言うスローガンを掲げて北海道に入植して来た集団のリーダーです。

噂には聞いていましたが、「一村一品運動」が盛り上がっていた70年代後半、岐阜県の有巣と言う集落で自給自足の集団生活を送っていた当時弱冠30歳のF氏は、西武百貨店の総帥である堤オーナーや仁木町長の求めに応じて数段で移住し、広大な敷地と真新しい建物を手に入れたのです。 私は、氏の独特の魅力に惹かれ設計業務を受任する事になったわけです。

さて、新たな本部の為に私が提案したのは、北海道産のレンガを積んで造る本格的なレンガ造でした。 F氏は、農業者であると同時に、米国のシェーカー教徒が作り出したシェーカー家具研究の第一人者であり、日本で唯一の作り手でもありました。 その事を知っていた私は、シェーカー教団の本拠地にあるレンガ造の建物をモチーフにした設計案を提示したのです。

しかし、実際の設計は困難を極めました。当時の建築基準(日本建築学会編特殊壁式構造基準)では、レンガ壁の厚さは60cm以上とか記載してあるだけで それ以上の詳細な基準が示されていないのでした。 そもそも今の時代にレンガを使って建物を作る人間がいるなどと言う事を想定していないのです。
阪神大震災が起きた直後の事でもあり、私たちは母校の建築構造学教室と連携して、独自の耐震構造を編み出しました。

いよいよ設計が完成し、建築確認申請書を道庁の建築指導課に提出したのですが、何しろ戦後初めての大規模レンガ造建築物なので、役所もレンガ造を審査をした経験がありません。しまいには建築指導課長が「・・・・あのさ、これって大丈夫なんだべ?」と聞いてくる始末。  なので、「大丈夫です!」と言ったらすんなりと審査が通りました(笑

 しかし、問題は実際の施工です。元々農地だった敷地は軟弱で、単位面積あたりの重量がコンクリート造の4倍もある建物を支える為に、地盤を約4m掘削し砂利を厚さ2mほど放り込んで転圧して地盤改良し、その上に厚さ1mの耐圧盤を持つ基礎を築いてレンガを積むと言う、きわめて特殊な工法を採用したのでした。
20人のレンガ職人を動員して数ヶ月を要して積んだレンガは約17万6千個。こうして日本では戦後初となる大規模レンガ造建築が完成したのでした。



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赤井川村の新たな敷地に完成した竣工直後のAris Farm本部です。北海道江別市で生産されたレンガを積んで作られています。 設計から完成まで丸2年。気が遠くなるような仕事でした。私を始めとして当社のスタッフが代わる代わる常駐して施工監理をしました。
窓やドア、内部の床板やソファー等の家具や、その他諸々は、F氏とF氏のパートナーであるUさんと私が、ロサンゼルスに赴いて調達しました。因に、その当時の為替レートは1ドル:83円!!!!! 今思えばタダみたいな金額です。
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オーナーのF氏です。彼は 横浜で生まれて育ったのですが、彼のお爺さんはスコットランド人だそうです。写真は、本部建物の地下にあるシェーカー家具の工房です。
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写真左側の女性がパートナーのUさんです。とってもシャイな女性ですが、知的で思いやりがあって・・・エッセイスト、料理研究家として著名です。
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最近の本部建物の写真です。とても12年前に作られた建物とは思えない佇まいですし、写真を見る限り日本とは思えませんね。 (写真は、 F氏撮影:Fさんごめんなさい。勝手に写真使わせてもらってます)
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ジャムです。Aris Farmの製品です。Aris Farmの食品工房は「工房」と呼ぶのにふさわしい規模と製造方法で仕事をしています。ジャムのカバー紙にKITCHEN MADEの文字がありますが、まさに農家の主婦が台所でジャムを作るのと同じような作業をしています。

Aris Farmのジャム作りは30年の歴史があります。なにより大切にしているのは、素材の力を生かすこと。自然の持つ風味はなにものにもかえがたい力があり、加工はそれを生かすことが大原則だと彼らは考えています。

Aris Farmの工房では10リットルほどの比較的小型の鍋を使っています。ひとつづつ異なる原料に機敏に対応するためです。同じ果樹でも材料はその都度違っており、これを同じ 品質のジャムにするにはひと鍋ごとに丁寧な仕事をする必要があります。副原料を大量に使って原料を均一化してしまう量産品とははっきり一線を画して作られていますね。


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建物の地下にあるUさんのキッチンスタジオです。アメリカ製のキッチンストーブが見えますね。
 Uさんの数々の著作に掲載されているレシピは、このキッチンから生み出されています。
by marimuramario | 2009-05-30 17:40 | 食べ物
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